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【小話】閻魔さまと黒無常

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花鳥風月

投稿時間: 2017-6-16 21:51:53 携帯電話から | すべてのコメントを表示 |閲読モード
ちょっとした小話を…





「ったくよー何が好き好んで、ババアと酒なんか飲まなきゃいけねぇんだよ。」

たまには語らわないかと閻魔様に呼ばれ、冥府の宮殿にやって来た黒無常。気怠げに通路を歩く。滅多にこんな招待が来るわけではない。本当は来たくなかったが、弟の白無常に行くように強く言われて半ば嫌々やって来た。
「失礼しまーす。お招きありがとうございまーす。」
気の抜けた挨拶をすると判官が怒りながらも部屋の奥へと通す。奥に鎮座した閻魔様が薄っすらと笑みを浮かべ、黒無常を近くへと招く。
「何だ黒無常?愛おしい弟以外のババアと酒を呑むのはそんなに嫌だったか?」
「げっ…聞こえてたか…」
「まぁ良い…地獄耳も何とやら。今宵は無礼講。うまい酒を呑んでいけ。」
「あ…はい。馳走になります。」
バツが悪そうな顔をしながらも、閻魔様に手渡された杯を受け取り傾ける。
「ほんに…お前ら兄弟は、お互いにしか興味ないな。」
「まぁ…俺はあいつさえ幸せにしてやれるなら…」
杯に注がれた酒をぼんやりと眺めながら黒無常は言葉を絞り出す。
「…俺の隣に居てくれるのは、本当に嬉しい…ただ…俺と一緒に居る事が本当にあいつの幸せなのか…一緒に居る事で…あいつの幸せを遠ざけているのかも…しれない…」
少し苦しそうな顔の黒無常。それを見た閻魔様は小さくため息を吐くと、ゆっくりとした口調で語り出す。
「お前には言ってなかったな…白無常が鬼使いになった時のことを。あやつは…自分の大切なものを犠牲にして…お前を迎えに行った。」
「…全て…を?」
「そう全て…を。お前とまた共に居たいが為にな。」
そう語り始めた閻魔様を黒無常は普段とは違う真剣な顔で聞き入り始めた。

「白無常…あの子の宿願は自分を殺した相手への復習と自分と共に居たい兄…お前を救い出す事だった。ただし叶える願いは1つだけだ。あの子は全ての記憶を消す前に私にこう願い出た。『自分の記憶から兄が居なくなっても、兄の魂の元へ行かせて欲しい』とな。」
「俺の元に…」
「あぁ、そうだ。妾とて鬼ではない…あの子の宿願を叶えてやりたくてお前を迎えに行かせた。記憶が無くても、魂に刻まれた想いは変わらない…今とて共にいる事を望んでいるのは白無常本人もだろう。」
杯を傾けながら語る閻魔様…薄っすらと笑みを浮かべ黒無常に視線を送る。
「お前の宿願も、仇と弟に会う事。迎えに来たのがその弟だった時のお前の顔…今でも覚えているよ。苦虫を噛み潰したよう様な顔をして居たが?」
「…それでも…会えた…それだけで嬉しかった…」
「大切な記憶は魂にしっかり刻まれている。お前が自分の記憶を消さなかった代わりに、あの子には成仏保留の罰が下ったが…お主らは…幸せそうだな。」
黒無常は自分の杯に写る自分のニヤケたかおを隠すかの様に酒を飲み干す。
「あっ…あの…閻魔様…」
「わかっておる。今宵はお開きにしよう。直ぐにでも帰りたい…そうお前の顔に書いてあるわ。」
閻魔様は微笑みながら手を叩き判官を呼ぶ。
「酒と肴を白無常にも持って行っておあげ。酒でも飲み交わして、2人で語らうとよい。」
「はい!ありがとうございます!」
「今度は白無常と共に来るといい。」
重箱の入った風呂敷を判官から受け取り、深々と頭を下げた黒無常は小走りで帰路についた。

「ほんに…不器用な奴らだなぁ判官?」
そう問われた判官も少し困りながらも頷いた。




「おや?黒無常。もう帰って来たのですか?」
「……」
「…黒無常?」
帰って来たと思ったら荷物を適当に置き、座って居た白無常に無言で抱きついた。
「……黒無常?」
子が親にすがりつく様に抱きついて来た黒無常に、白無常も少し焦りはするが…小さくため息をつき、静かに頭を撫でてやる。
「どうしたのですか?こんな子供みたいに…」
「う…うるへぇ…………少しこのままで居させてくれ。」
「おやおや…仕方がないですね…。」
仕方がない…と口では言いつつも、少し嬉しそうに白無常は微笑んでいた。

終わり
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