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小話 「判官様のむかし話」

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花鳥風月

投稿時間: 2017-8-8 11:44:10 携帯電話から | すべてのコメントを表示 |閲読モード

ここは冥府の閻魔様の館

普段は白童子と黒童子の面倒を見ている無常兄弟が直ぐに帰ってこれない業務のため、童子2人が泊まりに来ていた。
寝巻きになり布団に入っているもののなかなか寝付けず、2人で小さな声で会話をしていた。

「何だお前達、まだ眠ってないのか?」

そんな時、2人の様子を見に来た判官に声をかけられる。

「あ…判官様…すみません…なかなか寝付けなくて…」

白童子は布団から飛び起き正座しながら振り向く。判官は小さくため息を打ちながら、襖を閉め部屋に入って来た。

「いつもあの鬼兄弟にどう寝かしつけてもらっている?」
「いつも…ですか?えーと…絵巻物読んでもらったり…」
「絵巻物……ここにはそんなものは無い。」

判官の言葉に、白童子は肩を落とす。

「だっ…大丈夫です。もう少ししたら寝付けると…」

どう見てもまだ眠気の来てい無い童子達の様子に気づき、判官はまたため息をつき2人の枕元に座る。

「……仕方がない…絵巻は無いが…ひとつ昔話を語ろう。」

白童子に布団に入るように言うと、ひとつ咳払いをして…判官は語り出す。



むかしむかしある屋敷に…

制裁事を書に書き続ける青年がいた。
家主が下す罰を淡々と書くのが青年の生きがいだった。
ある夜青年の元に…罪を犯した者の家族が現れこう言った。

「貴方の望む物を差し上げますから…うちの人の罪を軽く書いてください。」

青年はそんな言葉に首を横に振る。
罪を犯した者の裁きを書き留める…それが自分の仕事。それに反く頼みを聞くわけにはいかない。

だが…度々そんな輩は訪れる。
金をやるから書きかえろ 屋敷を買ってやるから 生涯養うから 此処より良い待遇で迎えるから……青年はそんな奴らがだんだん人の姿で無く、悍ましい黒い影に襲われる感覚におちいる。

「…なんと醜い…そんな者は見たく無い。」

青年はその影に呑まれぬよう必死だった。

頼まれる物を全て断る日々が続いたある日…若い女が訪ねて来た。

「私の愛する人を…助けて欲しい。」

そう語る女性。先日島流しと罰が下ったらしい。しかし青年は首を横に振る。
その時だ…女性に背を向けたと同時にドンとぶつかる衝撃受け青年は崩れ落ちる。
背中の痛み…流れ出す熱い物……そう、逆上した女性に青年は刺されたのだ。
動けなくなった青年は虚ろな目で見る。
周りに取り押さえられる、醜く狂った女性…
怒声を浴びせられながら…青年は意識を失った。

目を覚ました青年は…生き甲斐だった書を書く事が出来なくなっていた。目に焼き付いたあの醜い人の形…夜な夜な襲われる様になっていた。

青年は言う…
「もう人とは言えぬ醜い物見たく無い…それを見写すこんな物……無くしてしまおう。」

そう語り…青年は自分の目を潰してしまった。その後仏の道に入り…短い生涯を終えた。


判官の話が終わる。
意識を白童子と黒童子に向けると、判官は慌てふためいた。

「うっうっ…」
「なっ泣くでは無い!」
「うっ…うっ……可哀想過ぎますよ…ううっ…」

涙の止まらない白童子を黒童子が頭を撫で慰める。判官は泣き止ませる手立てがなく慌てるだけだ。

「うっ……その青年さん……天界に行けたのでしょうか…?」

声を引きつらせながら…白童子は判官に問う。

「……冥府の神の御慈悲を受けた。」
「うっ……本当…ですか?…良かった!」
「あぁ、今でも書を書き続けている。」

白童子の頭を撫でてやると、落ち着いて来たのか笑みを浮かべたのだとわかる。

「さぁ…そろそろ寝なさい。」
「はい、ありがとうございます。判官様。おやすみなさい。」
「あぁ、おやすみ。」

行灯の灯りを小さくして…2人のいる部屋を出た。




見たく無いものを目に移す事は無くなったが、心で写し取れる様になった…
嘘偽りなく裁き…生死を書き示す…

それが…青年の今の職務だ。



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